前回いただいた首藤さんからの手紙が非常に嬉しくて、受け取って3時間もしないうちにWordに下書きを打ちこみ、そのまま清書して返信しました。
好感があり尊敬している人への応答はとても早く、単調なやっつけ仕事の文章とは違って、勢いのある自分に少し驚きました。
首藤教之さま
お手紙ありがとうございます。
どきどきしながら、封を切らせていただきました。
コロナウイルスは収束の目処がたちませんが、いかがお過ごしでしょうか。
葉山ハートセンターで、新型コロナの患者さんが療養をされているというニュースを聞いて心配になりました。
私は今は外出を控えつつ、メルカリに不要な雑貨を出品して、身の回りのものを整理しているところです。
「伝言ノート」もうすでに首藤さんの絵を拝見させていただいているためか、作品の印象が裏付けられていくような感覚で、とても楽しく読ませていただいています。
この度の一期一会、大変感謝しております。
2011年3月11日以降(その時は高円寺に住んでいたのですが)、私も反原発デモに参加するようになり、首相官邸前の抗議活動に足を運びました。
もしかしたら、首藤さんともどこかですれ違っていたかもしれません。
先日、ジョギングをしていて逗子から東逗子にかけての車道で、「池子の森を守る運動」の方々が数人集まり、静かにプラカードをもってデモ行進をしているのを見かけました。
高円寺だと、毎週末なにかの理由で若い人が中心となりサウンドデモが行われていたので、逗子は地域的に声を大きくして主張するのが難しい地域なのかな?と少し感じました。
もし直接声に出して表現することが阻まれるのであれば、芸術へ表現を変えればいいというのは、私が首藤さんの本を読んでいて思うことです。
なにより首藤さんの飛行機の絵を一目見て、大好きなパウル・クレーの「天使」シリーズが思い浮かびました。私にとって首藤さんのおっしゃることは間違いないです。
先日、朝日新聞の「折々のことば」に岡本太郎さんの言葉が引用されていました。
無名の運命のなかで、自分の節を貫き通して、歴史にものこらないで死んでいった者の生き方に、ぼくは加担したいんだよ。
私もこの意見に賛成します。
コロナウイルスの検査や感染者数の報道一つとっても、国家権力が都合の悪い情報を隠蔽また詐称する体質であるのは、戦中も戦後である今も変わっていないのでしょう。
コロナの件が収束しましたら、私も首藤さんと「天使」のお話しをしたいです。
それまで、お身体お大事になさってください。
お元気で。
江畠香希
私は絵ではなく映画という表現方法を選んで2009年頃から作品を作ってきています。
私自身の体験に基づいたテーマが多く、一作目『女として生きる』は大学を中心に上映を行いながら、ジェンダーについての講演と質疑応答を行いました。
詳細はこちら→ http://onnatoshite.rll.jp/
映画を作る前は、ドキュメンタリー映画の力を信じ、当事者がより生きやすいよう社会を変えていこうと思っていました。
多くの観客の反響から作り甲斐を感じた一方、「見世物」として映画が消費される側面に落胆もしました。
また、様々な受け取られ方や考察をされたことで、映像作品というのは作者と切り離され一人歩きする子供のようだと感じました。
ただ、発信者になることはリスクと表裏一体の一面もあり、見ず知らずの不特定多数へ向けて事実を伝えるために映像制作をするより、より慎重で多感な少数の観客に向けて(映像メディアに拘らず)作品を作った方が、より良い出会いをもたらすのではないかと、考えが変わっていきました。
言い換えれば、私にとって、何に興味があり価値があるのかは、はっきりしているからこそ、信頼する人から親しみのある返答さえあれば、世間からの承認は必要ないと考えるようになったのです。
そこから10年間は、新作の企画をしては立ち消えることの繰り返しでした。
2015年にフランスへ留学してからは環境を変えれば、私をとりまく環境や言説も変わり、ジェンダーの問題よりむしろ外国人、またアジア人であることに問題が移っていきました。
フランスから帰国し、仕事を中心とした生活に慣れてきたとき、偶然出会ったのが首藤さんの絵です。
真っ暗闇を星のひかりを頼りに滑空する、単純な形の飛行機は、サン=テグジュペリの小説『夜間飛行』とパウル・クレーの『蛾の踊り』、またヴァルター・ベンヤミンの言葉『夜のなかを歩みとおすときに助けになるのは橋でも翼でもなく、友の足音だ』を彷彿とさせ、首藤さんの戦争体験の辛さとは裏腹に、希望を象徴するものに見えました。
80代後編になっても、おさな心を保ちつづけ、精力的に制作を続ける姿に憧れました。
だから、私も過去の作品をまとめ、新しいスタートを切るために、このウェブサイトを運営しようと思っています。(次回は私の思う「天使」について書きます。)
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